【ネタバレ】『イングロリアス・バスターズ』

 ガンガンにネタバレしていきます。読みたい人だけスクロールを。
 
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 つか、映画の感想をネタバレしないで書くなんで不可能だと思うのです。エンドロールがすべて終わるまでで一作品なのであって、重要なところをボカして書いても面白くはないし、発展性のある議論にもならないと思うのです。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 







 かいつまんで言えば「WW2にかこつけて、スラッシャー映画を撮りたい」っていう、要するにいつものタランティーノ映画だと思います。

 ただ、題材がWW2ということなので、「それなりに歴史を押さえてみた」「それなりに伏線を張ってみた」「それなりに深刻な仇討ちモノに仕立て上げた」だけ。そこら辺は恐らく適当というか、タランティーノにとってはどうでもいい部分なのでしょう。

 伏線の扱いの適当さは、例えばショシャナ(メラニー・ロラン)の話に現れています。冒頭のフランス人酪農家の床下に匿われていたショシャナとその弟が、ナチスの『ユダヤ・ハンター』ハンス・ランダに見つかり、床の上から銃で滅多撃ちにされる。なぜかショシャナに銃は命中せず、ショシャナは牧場の彼方に走り去る。ランダはショシャナを認め、背後から銃を構えるも「Au revoir, Shosanna(元気でやれよ、ショシャナ)!」と叫んで見逃す。そういうシーンです。

 ところが、ここで死んだはずの弟の描写はない。仇討が主題ならば、ここでは身も凍るような惨劇が描かれていなければなりません。しかし細かい描写はないまま、弟の死体すら映さないまま暗転、次のシーンへ。最初のフランス人酪農家には意味ありげに美人三姉妹がいますが、もちろんどうでも良いので今後は出てきません。

 一時が万事そうなのであって、意味のある伏線というものはほとんどない。せいぜい、ゲッペルス主催の昼食会でショシャナを見つけたランダが、自分にエスプレッソ、ショシャナに牛乳をふるまったシーンぐらい(「酪農家のところにいたジュウだろ?」ってメッセージ)。

 それどころか、プレミア上映会のくだりで、ヒトラーがドニー・ドノウィッツともう1人のバスターズにサブマシンガンでハチの巣にされるわけです。もう、史実もくそもない。ハチの巣にされ、完全に絶命しているのにまだ撃たれ、アイスクリームのように顔が変形してるシーンまで描かれたり。


 その代わり、無駄に細かいのがスプラッター描写です。バスターズの整列シーンでレイン(ブラッド・ピット)が「ドイツ人の頭の皮を100人分剥いで来い」と言った後、いきなり次のシーンで頭をゾリゾリ剃るシーンが、無駄に鮮明なカラーで、ザクロの断面のようなやつが次々と描かれる。ご丁寧に二度も三度も。
 
 次のシーンでは、バットでナチを次々と殴り殺す『ベアー・ジョー』が登場し、ナチス将校の頭をこれでもかとぶったたいて撲殺してしまう。倒れこんだ将校の頭にバットがクリーンヒットするのが見える。さすがに引きの映像だったけれども、これも衝撃的なシーンです。R15指定なのは、割と当然だなーと。

 かと思えば、銃で足を撃たれたスパイ役ブリジット(ダイアン・クルーガー)が獣医(!)の下に運び込まれると、弾丸が入っていた足の傷めがけてブラピが指を突っ込み「なぜ失敗したのか」という尋問というか拷問をするわけです。これも詳細に描かれている。

 ブリジットはその後、ランダに絞殺されるわけですが、そのシーンでブリジットが白目をむいていく過程も無駄に細かいし、冷静なランダが髪を振り乱して顔を真っ赤にすることにも、大した意味もないのに描かれている。

 極めつけはラストのシークエンス。ヒトラーゲッペルスらを売るという条件で投降したランダを、レインが拷問するシーン。ランダの額に、ナイフでカギ十字マークを刻みつける、鮮血飛び散るシーンです。ランダの絶叫が響く中、「中尉(レイン)、最高傑作ですね」で幕。

 このオチには噴き出してしまいました。タランティーノがやりたかったのは「これ」に他ならないと思うのです。「ああ、やっぱ“それ”をやりたかったのね」と思えば、全てが許せるなとw

 ナチス高官が集まるプレミア上映会で、レインら3人のバスターズの素性を見抜いていたランダが、イタリア人と偽った3人に対して流暢なイタリア語で話しかけ、偽名を何度も何度も繰り返し発声させます。あのシーンにしたって、一度やって失敗しているのに「もう一度!」とかやるわけです。

 タランティーノの映画としては、むしろ例外的にストーリーがある方なのかな(キル・ビル程度にはある)という感想でした。申し訳程度のストーリーがあるけど、やっぱり力を入れるのはスプラッター描写だったり、股間に銃を向けるシーンだったり、店内の全員が銃撃で死ぬ中、1人生き残った男が半狂乱でマシンガンを構える顔とか。つまり「極限状態に置かれた普通の人間の狂う様」を面白おかしく描きたい、という映画なのかなと思います。

 余談ですが、映画館で見ていた際、ラテン系の外国人2人が近くに座っていたのですが、とりわけ上記の発音のシーンで爆笑が起こっていました。「アメリカ人におけるイタリア語の発音」とか、そういうネタフリなのかなと。あとは、ナチスがゴミのように殺されていくので、

 「ゴミのように殺していい人間は誰だろう。そうだ、ナチスにしよう!」
 
 とタランティーノが考えた可能性も否定できません。

 タランティーノ好きには、いずれにせよ見ておくべき映画かなと思います。お勧めです。
 
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%83%90%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%BC%E3%82%BA